現役編集者の書評ブログ

ビジネス書の編集をしています。読んだ本を不定期で紹介します。

【書評】『いま君に伝えたいお金の話』村上世彰

誰も教えてくれない「お金」のこと

僕は「お金の使い方」が下手だな……最近よくそう感じる。

 

学生時代は自由にできるお金が少なかったから、使い方に悩むときはほどんどなかった。しかし、いくらか自由にできるお金ができてきたいま、変なところでケチってしまったり、必要のないところに無駄遣いをしてしまったり、ということを繰り返している。

 

たとえば、平日はスーパーで数十円値下げされた総菜を買って食べているのに、土日は友だちとの飲み会で簡単に何千円も使う、とか。

数十円の値下げを気にして、数千円の浪費を気にしないなんておかしいとわかっているのに、なかなか使い方を変えることができない。

 

どうして、こんなにも下手なのか……原因を色々考えていると、「僕は一度もお金の使い方について勉強したことがないからではないか」ということに思い当たった。

 

親からお小遣いをもらうようになって以来、「自分のお金」を管理してきたけれど、家でも学校でも、そのお金をどんなことにどうやって使うかを教わることはほとんどなかった。せいぜい、「無駄遣いはやめましょうね」というぐらい。

 

ということは、僕は実は、お小遣いをもらい始めた小学一年生からずっと、お金に対する考え方は変わらず未熟なままかもしれない。

因数分解微分積分はその後の人生で使わない人もたくさんいる。でも、お金を使わない人は誰一人としていないのだから、学校で「お金の使い方」をちゃんと教えるべきではないのか。

 

学生ローンが払いきれずに破産したり、クレジットカードの返済が追い付かずに多重債務者になってしまったり、社会問題化する「借金問題」。これも、義務教育で「お金の授業」を科目に加えれば解決するのでは、と思う。

 

ただ、今の子供たちよりもっと危機的状況にある人たちがいる。それは、お金の使い方を教わらないまま、社会に放り出されてしまった僕ら自身だ。

手元にあるお金の額は増えていくのに、その使い方は未熟なまま。しっかりお金と向き合えている人からしたら、僕らのお金の使い方なんて、世界史の教科書に載っている「札束で遊ぶ子どもたち」のように見えるのかもしれない。

 

今回紹介するのは、そんな僕たちを救ってくれる一冊だ。

 

 

 

 

『いま君に伝えたいお金の話』

書名:いま君に伝えたいお金の話

著者:村上世彰

出版社:幻冬舎 (2018/9/6)

ISBN:9784344033597

Amazon CAPTCHA

 

村上世彰。多くの人はこの名前にいいイメージを持っていないことだろう。

村上ファンド」のトップとして「もの言う株主」として注目されたが、2006年、ニッポン放送株のインサイダー取引の容疑で逮捕・起訴された。当時、マスコミの村上叩きはほんとうにすごかった。連日のようにワイドショーで取り上げ、「村上世彰は金の亡者」というイメージを植え付けるのに躍起になっていた。

 

僕も、「金儲け至上主義」という印象を持っていたが、村上さんが2017年に出版した『生涯投資家』(文藝春秋)を読んで、がらっとイメージが変わった。

 

editor-review.hatenablog.com

 

当時日本ではほとんど知られていなかった「コーポレートガバナンス」を浸透させる。それにより、日本社会のお金の巡りをよくして、経済をさらなる発展に導こう。

この村上さんの考え方は、事件から10年以上経ったいまなら理解できる人が多いと思う。僕らは「村上たたき」によって、10年以上先を見通していた人を日本社会から排除してしまったのだ。

 

そんな村上さんはここ最近投資家としての活動を再開し始めていて、先ほどの『紹介投資家』のように、著作も出版している。

今回紹介する『いま君に伝えたいお金の話』は村上さんの復帰第2作だ。

本書では、村上さんが「10代のうちに知っておいてほしいお金の貯め方・使い方・増やし方」を紹介している。

10代向けということで、語り掛けるような優しい文章で書かれているが、内容は僕ら大人でもハッとさせられるようなものばかりだ。

 

デパートなどで、あれも欲しい、これも欲しいと思ったことはありませんか。けれど、どんなに頑張っても、欲しいモノを全部買うことはできないのです。そして、どんなに素晴らしいモノを買ったとしても、新しいモノが出たらまた欲しくなるに決まっています。
そういうときは、心を落ち着けて、プライスタグを見てください。
そしてその値段が、本当に自分の思う価値や目的に見合うかどうかをよく考えてみてください。その値段の分だけ、自分を幸せにしてくれるかどうか考えてください。

 

「その値段の分だけ、自分を幸せにしてくれる」――これを常に問いかけることができれば人生は豊かになっていくだろう。お金を使った分だけ幸せが増えていくのだから。

 

こうしたお金に対する基本的な考え方に加えて、村上さん独自の哲学についても触れられている。それは、「稼いで貯めて、回して増やす。増えたらまた回す」、つまりお金は「循環させることでさらに集まってくるようになる」ということだ。

実際に投資家として多くのお金を「循環」させてきた村上さんの主張はとても説得力がある。

 

10代向けの本ではあるけれども、お金についてほとんど学んでこなかった大人も読むべき本であると思う。

というか、「10数年前に話題となった人」が著者として立てていること、「クラウドファンディング」などにも言及していることから、実は僕らを裏の想定読者にしているのでは、と編集者の気持ちを勘繰りたくなってしまう。

そんな想像を働かせてしまうほど、大人も学べる一冊なので、ぜひともご一読を。

 

f:id:okokok1120:20190112195317j:plain