【書評】『会話もメールも 英語は3語で伝わります』(中山裕木子)
英語本、その厳しさとは……
編集者は意外と(?)英語を必要としない仕事だ。
就活中に出会ったある女の子が、面接で「こんなにTOEICの点が高くて編集者になるのはもったいないよ」と言われたと戸惑っていたが、そんな忠告をしたくなるほど普段の仕事で英語を使う機会がないということだろう。
しかし、そんな編集者でも、無謀ながら英語本の企画を立ててしまうことがある。グローバル化がますます進行している昨今、『村上式シンプル英語勉強法―使える英語を、本気で身につける』(ダイヤモンド社)『一億人の英文法 ――すべての日本人に贈る「話すため」の英文法』(ナガセ)など、ベストセラー・ロングセラーが生まれる❝熱いジャンル❞のひとつだからだ。
英語が苦手な編集者が英語の本を作ると……
ただ、いざ編集作業に取り掛かると、大きな壁にぶつかることになる。とにかく校正が半端じゃなく大変なのだ。
日本語の校正は誤字脱字のチェックが中心なので、丁寧に読み込んでいけばいいが、英語本はそうはいかない。
スペルに間違いはないか、文法に問題はないかを辞書片手に一語一語確認していかなくてはならない。特に文法は、「ルール上はありえるけれど実際にはその表現は使われない」という罠があるため、より一層注意が必要になる。
そうやって血を吐くような編集作業を終え、校了を迎えても、どこかに間違いがあるのではないかと震えながら発売日を迎えることになる。
世の中には数多の英語本が並んでいて、どの書店にもコーナーが設けられているが、その本のどれもが、編集者の努力の末に生まれているのだ。そういう意味では、英語本コーナーというのは、書店の中でも一番編集者の「苦悩」がにじんでいる場所といえるかもしれない。
今回紹介する本も厳しい編集作業を経て作られたであろう英語本だ。
『会話もメールも 英語は3語で伝わります』
書名:会話もメールも 英語は3語で伝わります
著者:中山裕木子
出版社:ダイヤモンド社 (2016/10/15)
ISBN:9784478069400
本書では特許翻訳というビジネス英語の最難関の部門で活躍する筆者が「伝わる英語の使い方」を指南してくれる。
この本が最初に書店で大展開されているのを見たとき、「英語を短く伝える」というテーマはこれまでに何冊も出ているのに、どうしていまこんなにも売れているのかというのを不思議に思った。
これまでの英語本とは一味違う
そんな疑問を持ちつつ本書を手に取ったのだけれど、少し読むだけで、この本の独自性、面白さが浮かび上がってきた。
単に「短く伝える」という本ならいくらでもある。しかし、この本では英語を「主語+動詞+目的語」の3語で組み立てることでシンプルな文で伝える、という再現可能なメソッドを紹介しているのだ。
これまでの短く伝える系の本は、使いやすい表現をとにかくたくさん紹介しているため、海外旅行に持っていく一冊としては便利だが、自分の考えを伝えるビジネスなどの場ではあまり役に立たない。
その点本書では、「3語で伝える」というメソッドを紹介しているため、そのメソッドさえ身に着けてしまえば、伝わる英語を自由自在に使いこなすことができる。
単なる表現の暗記では満足できない一段上のレベルを求める人たちに刺さる内容になっているからこそ、20万部を超えるベストセラーとなっているのだろう。
本当に「3語」で表せるのか?
「英語ではほとんどの内容が3語で表現できる!」と言われると、「それはムリでしょ」と思ってしまうが、実際に本書の中では、複雑な例文が次々と「3語」に変えられていき、筆者のスキルに感心してしまう。
「その製品の採用により、費用削減を実現します」
【直訳】The cost cut will be realized by adopting this product.
↓
【3語】This product will cut cost.
複雑な日本語も「3語」にすれば、これだけシンプルに表すことができる。
筆者によると、「3語の英語」を組み立てる際に必要なのは以下の3ステップだという。
①伝えたいことを整理する
②主語を選ぶ
③動詞を選び、文を組み立てる
これだけ? と拍子抜けしてしまうかもしれないが、本書には、文意に合う主語の選び方や、使用範囲の広い動詞も載っているため、読むだけで自然と「3語の英語」を作ることができるようになる。
本の後半部分には、前置詞や助動詞など、「3語の英語」に情報を肉付けしていく方法が紹介されていて、より実践に近い内容となっている。この部分は少し細かいので(関係代名詞の非制限用法とか……)、自分に使えそうなところを拾い食いのように取り入れていくのが、いい読み方かもしれない。
安易な「知識」より一生モノの「方法」を
「英語ができない自分」にコンプレックスを感じている日本人は多い。そうしたニーズに対して、これまでの英語本は、使える表現の紹介という「魚を与える」ようなものが中心だった。しかし、本書は3語の組み立てという「魚の釣り方を教える」本になっている。
即効性は少し弱いかもしれないが、その分、一生モノの英語を身に着けられる本になっているので、「英語アレルギー」を克服したいという人にぜひとも薦めたい一冊だ。