数字で見る「100万部突破!」のすごさ
「100万部突破!」
出版社も、取次も、書店も、出版界のみんなまとめて幸せになる言葉だ。
100万部の本を作った編集者は伝説の存在になれるし、刊行した出版社もミリオンセラーを出した会社として認知されるようになる。
2015年、文藝春秋から刊行され、ダブルミリオンを達成した『火花』(又吉直樹)がどれほどの社会現象になったかを覚えている人も多いだろう。
でも、「ミリオンセラー」ってどのくらいすごいの? って言われると具体的に答えられる人は少ない気がする。
「100万部」というのがある種ふわっとしたイメージのように使われていて、「とにかくものすごく売れてます!」以外の意味を実はあまり共有できていない。
そこで今回は、「100万部突破!」のすごさを出版界にまつわるいろんな数字からひも解いていきたい。具体的には、①刊行点数、②販売金額、③書店数の3つから見ていく。
①刊行点数
この記事の冒頭で触れた『火花』がダブルミリオンとなった2015年、なんとミリオンセラーを達成した書籍はこの一冊のみだった(「ORICON NEWS」より)。つまり、『火花』は2位以下と2倍の差をつけていることになる。
また、2016年は文庫では『君の名』(KADOKAWA)がミリオンを達成したものの、単行本では、残念ながら1冊もミリオンを達成しなかった。
年間の書籍の刊行点数はだいたい8万点前後で推移している(2014年は8万954点/日本の統計2016)から、2015年における「100万部突破!」というのは、「年間刊行書籍8万点の中の頂点!」と言い換えられる。
ちなみに「甲子園優勝!」は「全国4000校の中の頂点!」だから、ミリオンセラーというのは、甲子園優勝のおよそ20倍の倍率だといえる。大阪桐蔭も真っ青な確率だ。
しかも、甲子園優勝校は毎年必ず1校は出るが、100万部突破する本は2016年のように、1冊も出ない年もあるので、ますます狭き門だといえるだろう。
②販売金額
出版界の格言(?)のひとつに、「上位1%のベストセラーが出版界を支えている」というものがある。ほとんどの本は出版したところで利益を出しておらず、一部のベストセラーの売上が大幅な利益を上げている、ということなのだが、これは事実といえるだろうか。
2016年、紙の書籍の販売金額は7370億円(「出版市場動向」より)。定価1200円の書籍が100万部売れたとすると、12億円だから、およそ600分の1の売上を1冊で上げていることになる。
600分の1と聞いて、意外に少ないと思うかもしれない。
しかし、販売金額を刊行点数で割った、1冊あたりの販売金額、920万円(7370億円/8万点)と比べると、12億円という金額の大きさが伝わるのではないだろうか。
つまり、ミリオンセラーの書籍は、1冊当たりの販売金額の100倍以上を稼ぎ出しているのだ。
こういった数字を見ると、書籍の販売金額というのは、「ベストセラーが出たかどうか」にも大きく左右されるといえそうだ。
③書店数
最後に書店数とミリオンセラーの関係についてみていきたい。
2000年には2万点を超えていた書店数も、2017年には1万2526店にまで減少している(
Amazonなど、ネット書店もあるので、正確とはいえないが、単純に100万部を書店数で割ると、1店舗あたりの販売数は79.8冊になる。
1店舗あたり約80冊とはものすごい大きな数字だと思う。町の小さな書店では80冊も売れないところも多いだろうから、大型店では、その分何百冊も販売していることになる。
1冊のミリオンセラーが書店にも大きく貢献していることを実感できる数字だと思う。
まとめ
今回「100万部突破!」を
①「年間刊行書籍8万点の中の頂点!」
②「1冊当たりの販売金額の100倍以上!」
③「書店1店舗あたりの販売数は79.8冊!」
と数字に置き換えてみた。どの数字もミリオンセラーが出版界、ひいては社会に与える大きさを示していると思う。
これから書店などで「100万部突破!」などと銘打たれたPOPやポスターを見た際には、その本に関わるすべての人達の喜ぶ顔もぜひ想像してみてほしい。