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現役編集者の書評ブログ

ビジネス書の編集をしています。読んだ本を不定期で紹介します。

【書評】『ピンポン』松本大洋

うれすじは「エモーション」

最近よく売れている本の共通点の一つとして「感情的に訴えかけてくること」が挙げられると思う。

昔からそのような本の代表は小説と漫画だった。『君の名は。』(KADOKAWA)だって『宇宙兄弟』(講談社)だって、Amazonのレビューを見ると、「登場人物の行動やセリフに感動した」というような感想が大半を占める。

 

 

そういった作品に触れた時の気持ちをうまく使ったビジネスも生まれてきている。

先に挙げた『宇宙兄弟』では、女性キャラクターが大事な人からもらったヘアピンを宇宙で身につけ気合を入れるといったエピソードがある。

 

 

そのエピソードから、漫画に登場するヘアピンを再現しグッズとして売り出したところ、大きな話題となり即完売。その後も再生産するほどの人気を博した。

 

 

それほどまで人気となった理由として、担当編集の佐渡島庸平さんは次のように語っている。

 

購入した人は、大切な日にそれを付けて、ピシッとした気持ちになりたいと思っているんですよね。男性ファンはネクタイピンとして使ってくれていて、結果的に私たちは「ピシッとした気持ち」を売っていたんですよ。

(「DIAMONDonline」:http://diamond.jp/articles/-/104947

 

この「気持ちを売った」という考えはすごく面白い。漫画内のエピソードを利用して読者に「気持ち」も買ってもらう。漫画の強みを最大限に生かした新しい可能性を感じさせてくれる事例だと思う。

 

 

漫画や小説の世界でこんな新しい形が生まれてくる一方で、ビジネス書や自己啓発の分野でも、「感情に訴えかけてくる」本が増えてきている。

 

 

単なるメソッドの紹介だけではなく、やる気を起こさせるような小説を載せたり(某ベストセラーのように8割近く小説にしてしまうのはやりすぎだと思うけれど……)、本文を会話調にして励ますような一文を入れたり、そういった本が少しずつ売れ筋になってきているように感じる。

 

 

やっぱり人間は感情の動物だから、どんな理性的な内容でもそこは切り離すことはできないということだろうか。

 

 

 

 

 

 

『ピンポン』

書名:ピンポン

著者:松本大洋

出版社: 小学館 (1996/06)

ISBN:9784091847362

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連載していたのは今から20年近く前だが、現在も色あせることのない不朽のスポーツ漫画。映画にもアニメにもなっているが、どちらも漫画原作のものにしては珍しくとても評価が高い。

 

 

幼なじみで同じ卓球教室に通っていた「ペコ」と「スマイル」を中心に、卓球に捧げる青春を独特の空気感で描く。

 

 

スポーツをしたことがある人ならだれもが感じたことのある負の感情も見事に描き切っているため、読んでいて何度も何度も心を揺さぶられてしまう。

 

 

特に、「ペコ」と「スマイル」の才能に嫉妬し、卓球との向き合い方に苦しむ「アクマ」は、漫画界屈指の名シーン製造工場といってもいいくらい素晴らしいキャラクターだ。

 

 

詳しくはぜひ読んでもらいたいが、「少し泣く」のシーンはスポーツ漫画史上1,2を争う名場面だと思う。「アクマのラケット」が発売されたら僕はすぐに買って部屋に飾ってしまうはずだ。

 

 

作者の松本大洋さんの作品には他にも『Sunny』(小学館)などがあるが、どの作品も自分の感覚を大事に描いているように感じる。

「計算」ではなく、「感覚」で描いているからこそ(違ったらごめんなさい)、はっとさせるようなセリフや、印象に残るシーンが生まれるのだろう。

 

 

ビジネス書や自己啓発の分野にまで「感情的な揺さぶり」が浸透してきたように、これから様々な仕事において、理性だけではなく、気持ちを大事にする流れになってくる可能性がある。

そのときに僕らにはどういったことができるのか。『ピンポン』のような漫画を読んで、「感情」に対する感性を磨いておくとよいのかもしれない。

 

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