【書評】『杏のふむふむ』杏
充実した毎日
あなたは充実した毎日を送れているだろうか。
編集者という仕事は、毎日同じことの繰り返しというわけではなく、新しい人に出会ったり、面白い体験をしたり、それなりに刺激的だと思う。
しかし、僕は時々(主に帰りの電車の中で)すごく不安に襲われる。
いまこうしている間にも、自分より段違いに充実した日々を過ごしている人がいて、その人と自分はどんどん差がついてしまっているのではないかという不安である。
これは、誰もが知っている大手企業で働き、休日も趣味に明け暮れる大学時代の友人も感じることがあるそうだから、充実度が日本で一番の人以外は全員につきまとう感覚なのかもしれない。
そんな日本で一番充実した体験をしている人は一体どこでどんなことをしているのか。
いつかお目にかかってお話を聞いてみたいものだ。
『杏のふむふむ』
書名: 杏のふむふむ
著者:杏
出版社:筑摩書房 (2015/1/7)
ISBN: 9784480432360
モデルや女優として活躍する杏さんのエッセイ集。
杏さんが出会った人たちのこととそこから感じたことがたくさん綴られている。
タイトルの「ふむふむ」は杏さんが出演していたラジオ番組で、杏さんのあいづちが「ふむふむ」と聞こえ、話題になっていたことに由来するらしい。
この本を読んで驚くのは、杏さんの過ごす毎日の圧倒的な密度の濃さだ。
あるときは、パリでモデルの仕事をし、またあるときは、歴女代表として、流行語の賞を受賞し、さらに野球経験者(!)として始球式なんかもやっている。
そのどれもを全力で、そして、すごく楽しんでいるのが文章からも伝わってきて、この人が日本でいちばん充実していて、もっとも人生を楽しんでいるんじゃないかと感じさせる。
本当に人生を楽しんでいる人の様子は、妬み、嫉み、僻みなどではなく、単なる憧れを起こさせるのだなと知った。
あなたがもし、友人のFacebookやインスタグラムでのキラキラした投稿にイライラしていたとしても、このエッセイを読んで安心してほしい。
世の中には、これほど人生を楽しんでいる人がいて、その人から見たら、自分と友人の差など、取るに足らない微々たるものなのだと。
エッセイから伝わるわくわく感を日々の活力とするのもよし、キラキラと輝く人の日常をのぞくような気持ちで読むのもよし、さまざまな読み方のできる素敵なエッセイだと思う。
杏さんに興味がある人も、ない人も、夜寝る前に一篇ずつ読み進めてみてはどうだろうか。