現役編集者の書評ブログ

ビジネス書の編集をしています。読んだ本を不定期で紹介します。

【読書メモ】『藤井聡太はAIに勝てるか?』松本博文

藤井聡太はAIに勝てるか?』

書名:藤井聡太はAIに勝てるか?     

著者:松本博文

出版社:光文社 (2018/3/15)

ISBN:9784334043452

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【内容】

もはやコンピュータが人間を超えた。しかし、
天才は生まれ、歴史を変える
奇蹟の中学生、下克上のソフト開発…激動の棋界の今

ついに将棋ソフトが名人を破り、「コンピュータが人間を超えた」という現実は誰の目にも明らかになった。しかし人間は、対戦が繰り返されるだけ過去に学び、無限に成長することができる。そして、加藤一二三羽生善治藤井聡太と、天才は必ず現れ、歴史を塗り替えていく。
棋士とコンピュータが対局する電王戦の終幕、藤井少年の快進撃、最強ソフトを目指すプログラマたちの執念の戦い…天才の誕生とコンピュータの進化で大きく揺れる棋界の最前線を追う。

【著者プロフィール】
松本博文(まつもとひろふみ)
将棋中継記者、ルポライター。1973年、山口県生まれ。東京大学法学部卒業。東大将棋部OB。在学中より将棋書籍の編集を行う。名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力し、「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。主な著書は、第27回将棋ペンクラブ大賞受賞作『ルポ 電王戦』『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(以上、NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『東大駒場寮物語』(角川書店)など。

Amazon「内容紹介」より)  

    

 

【感想】

この人の本は出ているのを見かけると必ず読むようにしている。東大将棋部のOBで、将棋記者を長年務め、コンピューター将棋ソフトについても黎明期からずっと取材をしている。
今の激動の将棋界を伝えるのにこれほど適した人はいないだろうと思う。

 

本書のタイトルはずばり『藤井颯太はAIに勝てるのか?』。いかにも新書らしい扇情的なタイトルだが、中身は2017年から2018年にかけて藤井聡太四段の活躍と、コンピュータ将棋ソフトの急激な成長についてがまとめられている。

こんなタイトルがついているけれど、著者の立場は一貫している。藤井聡太いや人間はもう既にAIには勝てない。AIはとっくの昔に人間を遥かに上回る力を手に入れていると言うのが本書の至るところで述べられている。

 

そもそも、現役の名人はすでにAIに負けている。ニコニコ動画ドワンゴが主催した叡王戦において、佐藤天彦名人とコンピューター将棋ソフトPonanzaが二度対局をし、どちらもPonanzaが圧勝している。
プロ棋士達の間でも、もう人間は将棋ソフトには勝てないというのが共通の認識となっているようだ。


ただ、著者の実感では、将棋ソフトに勝てなくなったからといってプロ棋士の価値はほとんど落ちていないようだ。
以前は将棋ソフトが台頭して来たら、プロ棋士の存在意義がなくなるのではないかという意見が根強かった。だからとりあえずうまく共存していけそうな現状にほっと胸を撫で下ろしている関係者も多いと思う。人間社会人体においても、将棋界が存続していけそうなのはある種の希望だといえそうだ。

 

ただこの状況が今後もずっと続くと言うのにはあまりにも楽観的すぎる。

本書の中では、

 

理論上、将棋には必ず結論がある。先手必勝、後手必勝、引き分け。この3つのうちのいずれかだ。人間はもちろん、コンピューター将棋ソフトであっても、それは以前わかっていない。しかし、強くなったコンピュータ同士の対戦で引き分けが増えていることを考えると、もしかしたら、勝利の結論は「引き分け」ではないか。そういう推定もなされ始めている。

 

という記述がある。
今プロ棋士がこれまでの地位を保てているのも、まだ将棋というゲームが解明されていないからなのだと思う。今後さらに将棋ソフトの成長が進み、将来の結論が明らかになってしまったら。将棋界が今の形から大きく変わらざるを得なくなるはずだ。


もしうまくやれば絶対に引き分けというのが明らかになったとしたら、極論を言えば、将棋は複雑な○×ゲームだということになってしまう。
将棋ソフトだったら引き分けに持ち込めるけど、人間はその能力に及ばないので勝ち負けがある。そのような状況で、子供たちはプロ棋士に憧れるのか、ファンは熱狂できるのか。今の人気を維持するのはかなり困難になるだろう。


本書では、将棋ソフトによって人間の棋力は上がっているし、藤井聡太のような天才も現れた。今後AIに勝つことができるような大天才が現れるかもしれない。という明るい展望で締められている。
これから将棋界がどのように変わっていくのか、または変わらないのか。

これから僕らが人間社会全体においてもAIとうまくやっていくためにも、こういった本から多くの人が学んでいく必要があるのだと思う。これからも松本さんには、将棋界と将棋ソフト界の両面を僕らに伝えていってほしい。

 

 

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