現役編集者の書評ブログ

ビジネス書の編集をしています。読んだ本を不定期で紹介します。

【読書メモ】『野球エリート 野球選手の人生は13歳で決まる』赤坂英一

 

『野球エリート 野球選手の人生は13歳で決まる』

書名:野球エリート 野球選手の人生は13歳で決まる     

著者:赤坂英一

出版社:講談社 (2018/2/22)

ISBN:9784062206785

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【内容】

「ドラフトで人生が決まる」と言われたのはもう昔話だ。
才能のある野球選手はすでに中学時代からその名は全国に響き渡り、有力高校が争奪戦を繰り広げるなど、転機となる時期が低年齢化している。

★2017年春の選抜高校野球で優勝投手になった根尾昂はなぜ、進学先を大阪桐蔭高校に決めたのか。

★「新怪物」が愛知県に2人いる
東邦・石川昂弥、愛工大名電・稲生賢二の今

★元巨人・前田幸長が語る「プロで通用する中学生」の見抜き方

★プロで二刀流をめざす青学大・鈴木駿輔の英才教育は10歳ではじまった

★甲子園の「天才球児」ソフトバンク内野手・古澤勝吾はどこでつまづいたか

オコエ瑠偉にたちはだかる「壁」

Amazon「内容紹介」より)  

    

 

【感想】

 この夏甲子園が記念すべき第100回大会を迎える。今はまだ世間の注目は高くないけれど、これから夏にかけてどんどん盛り上がっていくはずだ。

去年の夏の大会一気にシンデレラボーイとして名を馳せた中村奨成選手のように、新たなスターが生まれてくることだろう。今から楽しみでしょうがない。

 

高校野球は甲子園ぐらいしか見ないという人にとっては、甲子園で活躍した選手たちのほとんどを彗星の如く現れたというように感じる。しかし、『野球エリート』の著者赤坂氏はそんなことは決してないと言う。

 

高校野球ではよく、スター選手が「彗星のごとく現れた」と表現されるが、何の前触れもなくいきなり才能開花させる選手のひとりもいない。現実には、小学校時代から素質の片鱗を見せ、それを伸ばそうと親や指導者が心血を注ぎ、野球選手としての土台を作られた中学生が高校野球の世界に入っていく。

 

ダイヤの原石のまま甲子園で活躍する選手などいない、ということだ。

本書では、大阪桐蔭の根尾選手、東邦の石川選手、九州国際大付属の古澤選手など、小学校時代からずっと、「エリート」と呼ぶにふさわしい順風満帆な野球人生を歩んできた選手たちの子供時代にスポットを当てている。

 

全員に共通するのは、両親の献身的な支えだ。現在ソフトバンクホークスに所属する古澤選手の父親は、硬式球が打てるバッティングセンターまで片道45分の道のりを毎日車で送り続けたという。わが子を甲子園で活躍させたい、さらにはプロに入れてやりたい、その一心で自分の力を全て子供に注いでいるのだ。

そんな古澤選手も、プロ入りはしたものの、そこで壁にぶつかり、なかなか1軍昇格できない日々が続いている。

今の野球界は、選手がいかに血のにじむような努力を重ねても、周りの人たちがどんなに協力をしても、活躍できるかどうかわからない厳しい世界であることが、本書の記述の端々から感じ取れる。

 

この本で取り上げられた「野球エリート」の陰には、その何倍もの数のスターになれなかった選手たちがいるんだろう。

プロになれなかった人たち、またはプロに入ったものの目立った活躍ができずに数年で解雇されてしまった選手たち。人生のすべてを野球に捧げてきた彼らがその後生きてくのは簡単なことではない。

 

解雇された元プロ選手のその後を追ったドキュメンタリーを見たことがある。パソコンのキーボードを利き手の人差し指で一つひとつ時間をかけて打っている姿が忘れられない。

高校時代誰よりも速い球を投げ、バッターをきりきり舞いさせてきた彼が、社会人なら誰でもできるようなことに苦戦している様子は、「野球エリート」の第二の人生の難しさを象徴しているように感じられる。

 

 

この夏の甲子園でも新たな「野球エリート」が誕生することだろう。きっと今の小学生や中学生はその姿に憧れを持って、より一層野球にのめり込んでいく。そういった子たちが、たとえ野球で挫折してしまったとしても、新しい道に進めるような世の中であってほしいと切に願う。

 

これから東京オリンピックに向けて、野球に限らずさまざまなスポーツで、「エリート」が誕生していくことと思う。僕らは大人の責任として、おそらくもっとも「英才教育」が盛んな野球から、その功罪を学んでおくべきなのかもしれない。

 

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