【読書メモ】『等身の棋士』北野新太
『等身の棋士』
書名:等身の棋士
著者:北野新太
出版社:ミシマ社 (2017/12/16)
ISBN:9784909394019
【内容】
2017年、彼らがいた。
極限の状況で「最善」だけを探る。
高潔な棋士たちの群像を描く、
傑作・将棋ノンフィクション! !
棋士という二文字は「将棋を指す侍」を示している。…一六〇人いる棋士たちは皆、自らが信じた将棋という勝負において光り輝くために戦っている。日夜の研鑽を積み、策略を謀り、勝利という絶対を追い求めている。――本文より
(Amazon「内容紹介」より)
【感想】
スポーツ新聞記者として、将棋界を取材し続けてきた北野さんが棋士たちの″ありのまま”の姿を追ったノンフィクション集。
羽生善治、加藤一二三、藤井聡太など、2017年大きな話題をさらった棋士から、マスコミがほとんど取り上げない女流棋士に至るまで、さまざまなドラマを丁寧に描く。
思うに、将棋の対局は限りなくスポーツの試合に近い。あるルールの元で、お互いが勝利に向かって全力を出し切る。そして、観戦者はその様子に熱狂し、涙する。たとえルールが全く分からなくても、浅田真央の美しい演技は感動を呼ぶし、高校球児のプレーは心を熱くする。そんな限界を超えようとする人間の美しさが将棋にもあるのだと思う。
ただ、将棋はスポーツに比べてファンの入り口が狭いのかもしれない。藤井聡太四段の連勝が話題になったときに、「将棋のことを何も知らないくせに……」という苦言をけっこう耳にした。せっかく棋士たちの活躍で、注目が集まっているときに、そうした”にわか”を排除しようとしてしまうのは、少しもったいないなという感じもする。
いまはまだ、若干敷居が高いと感じる世界だけれど、僕らのようなルールしか知らない人でも思い切って飛び込んでいけるような環境になってくれるといい。
そういう環境をつくるのに、大きな役割を果たすのが、名ライターの存在だと思う。たとえば、「江夏の21球」の山際敦司は、野球がどんなに心を揺さぶるスポーツなのかということを人々の記憶に強く焼き付けた。
将棋界においても、北野さんが今後そうした存在になってくれれば。『等身の棋士』を読むと、そんな期待を抱いてしまう。
- 二度の奨励会退会を経験しながらも、挑戦を続け、41歳でプロになった今泉健司の戦いを記録した「過去との訣別」
- 羽生善治が20歳年下の豊島七段とのタイトル戦で見せた「勇気の一手」を描いた「羽生の一分 鳴り響く歌」
- 「運命の一局」に挑む女流棋士たちの姿を追った「交錯する部屋」
……など、読み応えのあるエッセイやインタビューが多数収録されている。将棋のルールをまったく知らなくても、勝利のためにすべてをささげる棋士たちの姿に、どんな人でも心動かされるだろう。
2017年は将棋界にとって「激動」の一年だったという。まだはじまって10日あまりの2018年も、羽生永世七冠の国民栄誉賞受賞など、「激動」はまだまだ続きそうだ。
北野さんがそれをどのような文章で僕らに伝えてくれるのか。いまから楽しみで仕方ない。