現役編集者の書評ブログ

ビジネス書の編集をしています。読んだ本を不定期で紹介します。

【読書メモ】『東芝の悲劇』大鹿靖明

東芝の悲劇』

書名:東芝の悲劇

著者:大鹿靖明

出版社:幻冬舎 (2017/9/21)

ISBN:9784344031753

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【内容】

粉飾決算原子力事業の失敗、主力事業の切り売りと、
日本を代表する名門企業が瀕死の危機に瀕している。
東芝の凋落は、経済環境の変化や技術革新に対応できなかったからでなく、
強大なライバルの出現により市場から駆逐されたからでもない、と著者。
20年にわたり東芝を取材してきた著者が、
歴代社長の「人災」という視点から、東芝崩壊の全貌を生々しく描き出す。
権力に固執し、責任をとらず、決断できないリーダーたち。
これは今まさに、あなたの会社でも起きている現実かもしれない。
全サラリーマン必読! 第一級の調査報道にして衝撃のヒューマンドキュメント。(Amazon「内容紹介」より)  

    

 

【感想】

読み応えのあるノンフィクションやルポタージュというのは、「近すぎず、遠すぎず」のスタンスで書かれているものだと思っている。

いま世間を騒がせている「東芝粉飾決算」について語るなら、不正に関わった東芝社員では「近すぎる」だろうし、テレビで訳知り顔で自論を語る評論家では「遠すぎる」だろう。

 

本書のように、数十年にわたり東芝を追いかけ続けた新聞記者が描くノンフィクションはまさに「近すぎず、遠すぎず」といえるのかもしれない。 

凋落していく名門企業の姿を客観的に見つめつつ、実際に歴代の社長たちへの取材をしていた著者の記述は、「東芝崩壊の全真相」という帯のコピー通りの、生々しく迫力あるものだった。

 

本書を手に取ったらまず、236、237ページを開いてみてほしい。このページには、「東芝・パソコン事業の月別売上高・営業利益の推移」を表したグラフが見開きで掲載されている。

東芝が行ってきた不正の❝異常さ❞が「営業利益の推移」のグラフにはっきり表れている。「バイセル取引」という粉飾決算の不正が拡大していった2009年から、四半期決算末である3月、6月、9月、12月のみ黒字を出し、それ以外の月は大きく赤字に沈むという通常では考えられない推移をたどっている。

さらに、2012年ごろからは売上高を営業利益が上回る月も出てくるようになる。「営業利益=売上高ー売上原価」という会計の一般書に書いてあるような常識をも覆す異様なグラフに恐ろしささえ覚える。

 

社長以下、上層部から到底実現不可能な目標を突き付けられた社員たちは「粉飾」に手を染めるしかなくなる。最終的には、社長自身が不正をするよう指示していたというのだからもはや救いはない。

今年の9月、二転三転した半導体部門の買収先が決まり、債務超過解消に向けて前進したのにも関わらず、いまだに株価上昇の兆しが見られないのは、会社自体の体質に疑問を感じている投資家がほとんどだからだろう。

 

本書では、「東芝の凋落」は4人の社長による❝人災❞だと結論付ける。

 

東芝の元広報室長は「模倣の西室、無能の岡村、野望の西田、無謀の佐々木」と評したが、この四代によって、その美風が損なわれ、成長の芽が摘み取られ、潤沢な資産を失い、零落した。

 

次々と明らかになる大企業の不祥事に、世界から「日本企業は不誠実」との印象がつき始めていると聞く。日本企業の成長の基盤となったトップダウン経営はもうとっくに限界を迎えているのだろう。今回の東芝の事件が、日本企業の歪みの象徴なのだとしたら、僕ら日本人はこの「失敗」から学ぶべきことは多いはずだ。

東芝崩壊の全真相」が知りたいという人はもちろん、日本で働くすべての人に読んでほしい一冊だと思う。

 

 

 

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