【読書メモ】『サラバ!』西加奈子
『サラバ!』
書名:サラバ!
著者:西加奈子
出版社:小学館 (2017/10/6)
ISBN:9784094064421
【内容】
姉・貴子は、矢田のおばちゃんの遺言を受け取り、海外放浪の旅に出る。一方、公私ともに順風満帆だった歩は、三十歳を過ぎ、あることを機に屈託を抱えていく。そんな時、ある芸人の取材で、思わぬ人物と再会する。懐かしい人物との旧交を温めた歩は、彼の来し方を聞いた。ある日放浪を続ける姉から一通のメールが届く。ついに帰国するという。しかもビッグニュースを伴って。歩と母の前に現れた姉は美しかった。反対に、歩にはよくないことが起こり続ける。大きなダメージを受けた歩だったが、衝動に駆られ、ある行動を起こすことになる。(Amazon「内容紹介」より)
【感想】
第152回直木賞受賞作。上中下の三巻あり(単行本では上下巻だった)、合計900ページを超えるかなりの長編作品だ。しかし、西さんの淀みのない文章と、次々と切り替わる場面転換のおかげで、一気に読み終えてしまった。
主人公の圷歩が自らの人生について語る自叙伝の形で話は進んでいく。前半、彼は基本的に語り手となって、彼の家族や周囲にいる人のエピソードが中心に語られる。
しかし、後半に差し掛かってくるにつれて、家族に関する記述は減り、だんだんと「彼自身の物語」にシフトしていく。個性的な人に囲まれてどこか流されるように生きていた歩は、姉から「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」という言葉を受け、少しずつ自分の足で歩き始めるようになる。
そうして彼はついに、子供の頃過ごしたイランで、親友だったヤコブとともに、「信じるもの」を見つける。西さんはここから逆算して書いていったんじゃないかと思うくらい、この物語のすべてが詰まっているシーンだった。
西さんらしい、いい意味で突拍子のない展開が続いていたのに、最後にいきなりこんなラストを描かれてしまうと、読む側としてはただただ脱帽するしかない。
こんな物語を紡ぎだせる小説家の人が同時代にいてよかった。そう思わせてくれる素晴らしい長編小説だった。
【こんな人に】
・読後の余韻に浸れるような小説を読みたい人