【読書メモ】『螺旋の手術室』知念実希人
『螺旋の手術室』
書名:螺旋の手術室
著者:知念実希人
出版社:新潮社 (2017/9/28)
ISBN:9784101210711
【内容】
読書メーター読みたい本ランキング第1位。驚愕のどんでん返し手術室での不可解な死。次々と殺される教授選の候補者たち。事件に秘められたある想いとは……。慟哭の医療ミステリー。純正会医科大学附属病院の教授選の候補だった冴木真也准教授が、手術中に不可解な死を遂げた。彼と教授の座を争っていた医師もまた、暴漢に襲われ殺害される。二つの死の がりとは。大学を探っていた探偵が遺した謎の言葉の意味は。父・真也の死に疑問を感じた裕也は、同じ医師として調査を始めるが……。「完全犯罪」に潜む医師の苦悩を描く、慟哭の医療ミステリー。『ブラッドライン』改題。(Amazon「内容紹介」より)
【感想】
すっかり一ジャンルとして定着した感のある「医療ミステリー」。そのなかでも一番支持を受けているのが、現役の医師が執筆した作品だろう。医師と作家という二足の草鞋をきっちりこなすなんて、一日が72時間くらいあるのだろうか……?しかも、作品のクオリティもすばらしいものが多いから、「天、二物与えてるじゃん……」と恨めし気な気持ちになる。
知念実希人さんも、そんな❝才能溢れる❞医師作家の一人だ。医師であるアドバンテージを存分に生かし、病院を舞台としたミステリーを多数執筆している。
本書も、純正会医科大学病院付属の病院で医師として働く冴木裕也が、大学病院内で起こった不可解な死の原因を探っていく「医療ミステリー」だ。
父・真也を自らが執刀した手術で死なせてしまった裕也は、手術中に起こったおかしな点に気づき、教授選の候補だった父親を何者かが殺そうとしたのではないかと疑う。
「教授」という権力の座を狙う候補者たちの思惑に翻弄されながらも、裕也は少しずつ深層に近づく。そして最後には「驚愕の真実」が明らかになっていく……。
用意周到に散りばめられた伏線や最後のどんでん返しなど、ミステリーとしての完成度もすばらしいが、本書の魅力は何といっても「リアル感」だろう。
手術中の様子や、事件が起こったときの主人公の対応など、目の前にありありと光景が浮かんでくるような描写が続く。病院内のこの緊迫感は現役医師ならではのものだ。
ミステリーにおいてはクライマックスが一番重要で、そこを盛り上げるために物語が構成されるという考え方もある。しかし、本書は、病院内での「リアルな描写」など、結末に至るまでの過程だけでも、楽しめる要素が盛り込まれている。
ミステリーとしても、医療の小説としても完成度が高い、著者の真骨頂が発揮された作品だった。
【こんな人に】
・本格的な医療ミステリーを楽しみたい人
・自分の知らない世界をのぞき見したい人