【読書メモ】『光炎の人』木内昇
『光炎の人』
書名:光炎の人
著者:木内昇
ISBN:9784041101452
【内容】
時は明治。徳島の貧しい葉煙草農家に生まれた音三郎は、当時普及し始めていた電気に魅せられ、技師としての道を歩み始める。厳しい労働環境の中、常に上を見据えて努力し続け、東大出身がひしめく軍の研究所の所属にまで上り詰める。
無線の実用化に向けて、激務ながらも充実した日々を送っていた音三郎だったが、戦争をきっかけに、彼の人生が少しずつ狂い始める……
【感想】
上下巻で700ページをゆうに超える長編。中盤までは音三郎の成長譚だったが、終盤は戦争に翻弄される悲劇的な物語へとシフトしていく。どん底から頂上まで駆け上がる音三郎にカタルシスを感じて、一気に読み進めてしまった。
明治・大正・昭和という時代の大転換点を正面から描ききる筆力に終始圧倒された。どれだけの資料を読み込んだらこれだけの物語を書くことができるのだろう。
木内昇という小説家の凄さを見せつけられるような一冊だった。
【一文】
汗だくになって黙々と硬銅線を加工していた小宮山製造所での日々がぶり返す。音三郎は怖気を震い、うしろを見ずに駆け出した。
新しい工場に移るたびに前の環境のレベルの低さに気づく、という描写が繰り返される。そこにいるときは自分の属する環境がどんなものかわからない。別の場所に移ってみてはじめて客観的に見ることができる。
もしかしたら、僕が今いる環境も他の場所から見たら笑ってしまうくらい低レベルな場所なのかもしれない。そう考えるとぞっとした。
【こんな人に】
・日々のマンネリ感に辟易としている人
・圧倒的な筆力に飲み込まれたい人