【書評】『書いて稼ぐ技術』永江朗
出版界とフリーランス
「働き方改革」がいま盛んに叫ばれている。
会社に忠誠を尽くすような姿勢は時代遅れで、これからは個人の力を発揮できるような社会にしていく必要がある、という主張をそこかしこで聞くようになった。
その主張にもっとも沿った働き方をしているのが、フリーランスの人達だろう。
会社、組織に属さず、自分一人の力で生き抜いていく様子は、会社員の僕からしてみたらとてもかっこよく映る。
実は、出版界というのは、フリーランスの人が多い業界だ。
ライター、校正者、デザイナーなど、個人の力がそのまま反映される仕事がほとんどだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
ライターという仕事
特にライターはフリーの人が多い。書籍のライティングが得意な人や、雑誌の執筆を中心にしている人、ウェブメディアに寄稿している人など、人それぞれ自分の強みを活かして活動している。
完全実力主義の厳しい世界の中、途切れることなく仕事を続けていくというのは並大抵なことではないと思う。
それに、 フリーランスは勤務時間が決まっておらず、どうしても時間が不規則になりがちだ。実際に、お付き合いしているあるライターさんは、いつも夜中頃に原稿が上げてくれる(しかも、朝にメールしても返信をくれたりする)ので、「いつ寝ているんだろう……」と心配になってしまう。
そんな彼に「いつもお忙しそうですね」と声をかけると、笑いながら「いや、自由にやってますよ」なんて答えたりする。自分一人で働くというのは、これくらいの精神的なタフさが必要になってくるのかもしれない。僕には、とてもとても無理だと思う。
ライターの「モチベーション」
ただ、自分の書いた本や記事が実際に書店に並び、多くの読者がそれを手に取ってくれるというのは、大きなモチベーションになると思う。
単に「会社員が嫌だから」とか「物を書くのが得意だから」といった理由だけでなく、そういったやりがいがあるからこそ、続けることができるのだろう。
「何か後世に残る仕事がしたい」「世間に認められるものを作りたい」と考えている人は、ライターを目指してみるのもいいかもしれない。
今回紹介するのは、「ライターってどんな仕事?」「どうやったらなれるの?」という疑問に答えてくれる本だ。
『書いて稼ぐ技術』
書名:書いて稼ぐ技術
著者:永江朗
出版社:平凡社 (2009/11/14)
ISBN:9784582854947
フリーライターとして、雑誌への寄稿や書籍の執筆など幅広い活躍を見せる永江氏が「ライターとして生きていくための秘訣」を明かした一冊。タイトルはずばり『書いて稼ぐ技術』。
なぜ、ライターを目指すべきなのか?
筆者はまずフリーライターを目指すべき理由として、「会社はつぶれるが個人はつぶれない」「フリーライターほど元手のいらない商売はない」の2点を挙げる。
確かに、フリーで仕事をしていれば、たとえA社が潰れようが、B社・C社といった他の会社との付き合いがあれば、ダメージは最小限で済む。会社員ならば、こうはいかないだろう。
また、ライターはパソコン1つ、フリーアドレス1つあれば、誰でも初期投資なしで始めることができる。執筆の際に資料を集める必要はあるが、それだって図書館や古本屋を利用すれば、あまりコストはかからない。
先行きが不透明で、大企業にいれば定年まで安泰という時代が終わりを告げたからこそ、筆者はフリーライターになるべきだと主張する。
じゃあ、どうやってなるのか……?
そんな魅力的な仕事であるライターにはどうやってなればいいのか、という話なのだが、残念ながらこの本で紹介されている筆者自身の体験は特殊なパターンであまり参考にならないかもしれない。
洋書の専門店に勤めているときに、出入りしていた編集者からブックレビューの仕事をもらう、という展開に再現性を感じる人はぜひともチャレンジしてほしいところだが……
筆者がすすめている「編集者に直接アポを取って売り込む」という方法も、なんにも実績のない状態ではほとんど見込みがないだろう。僕だって突然電話がかかってきても、話をじっくり聞いたりはしないと思う。
“書いて稼ぐ”ためのテクニック
「ライターになるため」の部分は少し実践的ではないように感じるけれど、筆者が実際に仕事をするうえで使っているテクニックや思考術はさすがに説得力がある。
- 世の中の常識とは反対のことを考える
- 図書館、書店、古書店を使い分ける
- ライターにとって、「あたりまえ」「当然」は禁句
- 人が嫌がるところにネタがある
- ルポの書き手は幸福になってはいけない
など、「なるほどな」と思わず付箋を立てたくなる箇所がいくつもある。ライターを目指す人はもちろん、他の仕事をしている人でも何かしらの勉強になるはずだ。
実用性半分、読み物半分?
ライターになるための方法が体系的にまとまっているわけではないため、この本を読んで、すぐさまライターになれるというわけではないだろう。
ただ、「ライターとはどういう仕事なのか」について、筆者自身の体験も踏まえて丁寧に記述しているので、読み物として面白く読むことができる。
ビジネス書でも専門書でもなく、新書のレーベルから出されていることも考えると、実用性半分、読み物半分というのが正しい読み方なのかもしれない。
とにかく、楽しく学べる一冊であることは間違いないので、物を書く仕事に興味がある人は手に取ってみてほしい。