【書評】『「言葉にできる」は武器になる』梅田悟司
編集者の「タイトル力」
ビジネス書編集者のもっとも重要な仕事は「タイトルをつける」ことだろう。
書店のビジネスコーナーには、特定の本を買いに来ている人だけではなく、なんとなく目についた本を買おうと考えて棚を見て回っている人も多い。
そんな人達にどうやって自分の作った本を買ってもらうか。
その答えの1つが「思わず手に取ってしまうようなタイトルをつける」ことだ。
タイトルに惹かれた人達が買ってくれれば、話題となって多くの人がその本を求めて書店にやってくる。誰でもすぐに探し出せるように、その本は書店の一番いい位置に置かれ、販売数を伸ばしていく。
つまり、タイトルが起点となって、ベストセラーが生まれるのだ。
内容ももちろん大切だが、買うまでに中身の一部しか確認されないという本の性質を考えれば、やはり、「いいタイトルなくしてベストセラーなし」と言えるのではないかと思う。
そんな編集者の腕の見せ所ともいえる「タイトルつけ」だけれど、実は本のタイトルにはいくつかの類型があって、書店に並ぶ本もこれらの類型にあてはめられるものも多い。忘備録も兼ねてそのいくつかを紹介してみたいと思う。
1.対比型
のように、2つの対照的なものを並べることで、「その差は何だろう」と読者の興味をかきたてる。特に『○○の人、○○の人』というのは定番の1つで、書店のいろんなコーナーで目にすることができる。
2.疑問型
『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』(サンマーク出版)
『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(KADOKAWA)
のように、問いかけるような形にすることで、理由が気になる読者が手に取ってページをめくってくれる。タイトルが長くなってしまうことが多いので、文字の大きさや色を変えるなどの工夫が施されていることも多い。
3.キャッチー型
『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)
のように、あえて本全体を統括せず、本文の一番キャッチ―な部分を抽出してタイトルにすることで、読者に「読みたい!」という気持ちを起こさせる。タイトルだけでは何の本かわかりづらいので、帯コピーなどで情報を補完していることもある。
4.説明型
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)
『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』(サンマーク出版)
のように、本の内容を全て説明してしまうことで、読者のイメージと内容の乖離を防ぎ、その本を求めている読者を逃さず捕らえられる。分かりやすさという面ではずば抜けていて、読者思いのタイトルともいえるかもしれない。
5.意外型
のように、「どういうこと?」と読者が疑問に思うような情報を盛り込むことで、読者に頭から離れないインパクトを与える。SNSなどで話題になりやすい、つまりバズりやすいタイトルだといえる。
このほかにもたくさん類型が存在している。
編集者はこれらの類型から選んだり、組み合わせて使ったりして、その本に一番合ったタイトルをつけようとあれこれ考える。
しかし、ただこれらの類型を機械的に用いればいいというわけではなくて、まずはその本が「何を・誰に」伝えるためのものなのかという核の部分を明確にしないといけない。それが自分の中でしっかり固まれば、どの類型を使っていくかというのも自ずと決まっていく。
つまり、技術より先に著者の想いや、本の魅力などが大事になってくるということだ。
少し前置きが長くなってしまったが、今回紹介する本も、「技術より先に見つめるべきこと」について紹介されている本だ。
『「言葉にできる」は武器になる。』
書名:「言葉にできる」は武器になる。
著者:梅田悟司
出版社:日本経済新聞出版社 (2016/8/26)
ISBN:9784532320751
国内外で数々の受賞歴のあるコピーライターが、自分の思考を「言葉にできる」ようになる方法を説く。2017年ビジネス書大賞ノミネート作。
受賞歴のあるコピーライターという紹介ではなくて、『世界は誰かの仕事でできている。』、『バイトするなら、タウンワーク。』を生んだコピーライターと言ったほうが伝わりやすいかもしれない。
そんな言葉のプロともいえる筆者が書いた本ということで、言葉を的確に相手に伝えるテクニックが盛り込まれている思う人が多いはずだ。
しかし、筆者によると、「伝える手段」は二の次でもっと重要なことがあるのだという。それは、自分の中の「内なる言葉」に目を向けることだ。
ある面白い映画を見て、一刻も早く誰かにその素晴らしさを伝えたいと思う。
すぐさま友達に電話をかけ、熱を込めて話し出すが、なぜかうまく言葉が出てこない。相手の冷めた相槌から、自分の感動が全く伝わっていない感じがする……
こういうとき、「言葉が出てこない」のは、自分の中の「内なる言葉」に気づいていないことに原因がある。
「内なる言葉」とは、「物事を考えたり、感じたりする時に、無意識のうちに頭の中で発している言葉」のことで、自分の思考を整理したり、相手に伝えたりするときには、この言葉を育てていく必要があるのだという。
内なる言葉が育っていない人は、先ほどの例のように自分の考えや感情をうまく言葉にして相手に伝えられず「あ、この人何も考えられていないな」と思われてしまう。
自分の中の言葉は初めのうちは漠然としている。しかし、その言葉に意識を向け続けていると、意見や想いが日に日に大きくなっていき、あるとき「この思いを伝えたい」という感情が心の底から湧いてくる。
ここまで来れば、小手先のテクニックに頼らずとも、湧き上がってきた言葉をそのまま伝えるだけで十分相手の心を動かすことができる。
これが筆者の考える「言葉にできる」までのプロセスだ。
じゃあ、どうやって内なる言葉に意識を向ければいいのか、ということなのだが、筆者は頭に思いうかぶ言葉をA4の紙に次々書き出していくことを勧める。
こうすることで自分の中のあらゆる考え・言葉を外に出し、形を与えることができる。
そうやって書き出した言葉を並び替えたり、深めたり、連想させたりして(本書にはそのための6つの具体的な方法が紹介されている)、解像度を上げていくと、少しずつ「内なる言葉」が磨かれていく。
「相手に伝えるためにまずは内なる言葉を磨けという」のは、遠回りすぎてまどろっこしいと思うかもしれない。しかし、どんなに「伝え方」を学んだところで、最終的には、「自分の中の言葉」と向き合わなくてはいけない状況に直面するのだ。
僕自身も本のタイトルをつける際に、先に紹介したような類型を基に言葉をいじくりまわすことから始めてしまって、結果的に時間をロスしてしまったことが何度もある。
だから、この本の、まずは内なる言葉に目を向けるという考え方はとても合理的だと思う。
プレゼン、営業、企画など、相手に伝える仕事をしている人は、「伝え方の本」を一度わきに置き、この本を手に取ってみてほしい。