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現役編集者の書評ブログ

ビジネス書の編集をしています。読んだ本を不定期で紹介します。

【書評】『ジブリの仲間たち』鈴木敏夫

本は作るもの? 売るもの?

「編集者は本を作る仕事」――多くの人がそう考えていると思う。

僕自身も入社前はそう思っていた。

 

 

しかし、今は少し考えが変わった。

「編集者は本を作って売る仕事」なのだ。もちろん、実際に取次や書店とやりとりをするのは営業の人たちだけれど、編集者は本を作る時点で、いやもっと前の企画を立てる時点から、「どうやって売るか」を考えなくてはならない。

 

 

いま一番売り方がうまい編集者はサンマーク出版の黒川さんだろう。

この人は2013年の『医者に殺されない47の心得』、2014年の『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』、そして昨年の『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』の3作でミリオンセラーを作っている。

 

 

出版業界が元気だった1996年ならまだしも、ここ数年で3作も100万部を超える本を作るなんて尋常じゃない。一冊でもミリオンセラーを出せば、伝説の編集者と褒めたたえられるのだから、この人は「伝説」の3乗でまさに「神」のような存在だ。

 

 

黒川さんのすごいところは、ミリオンセラーの理由を限りなく細かく言語化できるところ。編集者の中には感覚派で、自分の編集術について全く説明できないような人も多いのだが、黒川さんは「なぜ売れたのか」「どうやって売ったのか」を理路整然と言葉にすることができる。

 

 

黒川さんは自分のPR術についてのインタビューで次のように語る。

 

黒川
特別なことじゃないんですよ。
テレビ見ながら「この番組にじぶんの著者さんが出られたらいいな」って思ったら、その番組をじーーーーっと見ていると、わかることがたくさんあるはずなの。

池田
「じーーーーっと」って、どこをじーーーーっと見ればいいんですか?
たいがい私もテレビは「じーーーーっと」みてると思うんですけど……(ごにょごにょ)。

黒川
そうだね(笑)
さっき話したような「構成要素」、それから「どんなタレントさんが出ているのか」「タレントさんたちそれぞれの役回りはどうか」「どんな衣装を着ているのか」みたいな、細かいところをじーーーーっと見るの。

池田
ええっ!? 衣装まで見るんですか??

黒川
うん、たとえば「裸足」にならないといけないエクササイズだとすると、女性のタレントさんはストッキングを脱がないといけない。
でも、タレントさん的にも、スタジオの状況的にも、それは難しいという場合があるんです。
となると、裸足じゃなくてもできるエクササイズのほうがいいんだな、とか想像できるでしょ。

 

webマガジン『本日校了!』【ヒットメーカーに会ってみた!】 黒川精一さん第8回「本を売り伸ばすための、PR」について教えてください!より(聞き手はサンマーク出版の池田るり子さん)

 

 

 どうだろうか。あまりにも、すごすぎて引いてしまうのではないだろうか。ここまで深く考え、それを言語化しているからこそ「100万部の売り方」という常識外の手法を確立することができたのだろう。

 

 

 

黒川さんはテレビをうまく使ったPRを得意としているが、近年はネットメディアの発達などによりテレビ以外にも様々な販促方法が使えるようになってきている。

読者が本を買いに来てくれる時代は終わり、誤解を恐れず言えば本を「買わせる」時代になってきているのだろう。

 

 

今回紹介するのは、ジブリの映画プロデューサーとして「売り方」を考え続けてきた鈴木敏夫さんによる宣伝奮闘記だ。

 

 

 

 

ジブリの仲間たち』

書名:ジブリの仲間たち

著者:鈴木敏夫

出版社:新潮社 (2016/6/16)

ISBN:9784106106743

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 著者の鈴木敏夫さんは日本一有名な映画プロデューサーといってもいいだろう。

鈴木さんは元々徳間書店でアニメ雑誌の編集長をしていたが、スタジオジブリに移籍し、映画プロデューサーとしてジブリ作品の宣伝を行ない、大ヒットの原動力となる。

本書は、そんな鈴木さんがジブリ作品とどのように向き合い、宣伝してきたかが綴られている。

 

 

風の谷のナウシカ』、『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』……鈴木さんは宣伝に関する独自の理論を打ち立て、新たな手法を取り入れながら、興行収入の記録を次々と塗り替えていく。

 

 

千と千尋の神隠し』の公開当時、学校でも「観てて当たり前」の空気が流れていたけれど、今考えると、テレビと違って観るのにお金がかかる映画で、それほどまでに世間に浸透させるというのは並大抵のことではないと思う。

 

 

当時の僕は自分の意志で観に行ったと思っていたが、鈴木さんの計算され尽くした宣伝手法を知ると、宣伝に操られるようにして、映画館に向かわされていた、というのが正確なのかもしれない。

 

 

千と千尋」の宣伝の柱となったのが、鈴木さんの打ち立てた「人間というのは3回、広告を見れば消費行動に走る」という仮説だ。

 

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネット、いろんなメディアを通じて、同じ映画の広告を3回見れば、お客さんは映画館に行きたくなると思うんです。

 

鈴木さんはこの仮説に基づいてローソンとタイアップをして、多くの人に「3回」宣伝を見せることに成功し、興行収入300億という当時の日本記録を破る新記録を打ち立てる。

 

 

この考え方は映画に限らず全ての商品・サービスに当てはまるのではないかと思う。本の販促のときも、新聞広告だけではあまり数字が動かなかったものが、ネットでも取り上げられるようになったときに爆発的に売れるようになることがある。

 

 

消費者にどうやって「3回」見せるか。鈴木さんの経験に裏打ちされたこの仮説は、なかなか目標が立てづらい宣伝の世界においてわかりやすい目標となってくれるはずだ。

 

 

鈴木さんは「3回」見せるために、タイトルの通り「仲間たち」と一丸になって取り組むことを大切にしているという。

 

宣伝とは仲間を増やすことである

 

これも鈴木さんが到達した宣伝の一つの真理であるようだ。

 

 

鈴木さんがこれから「仲間たち」とどんな宣伝を見せてくれるのか(宮崎駿監督が長編の新作を製作中というニュースもある!)。

それを楽しみにしつつ、僕らだって新しい時代を切り開いていくような宣伝にどんどんチャレンジしていかなければならないだろう。

 

 

身近なジブリ映画の裏話満載で、読み物としてもすごく面白いし、映画を通じて時代を動かしてきた鈴木さんの「宣伝哲学」を学ぶことができる本書は、「楽しく知る」の決定版といってもいいだろう。

 

 

どんな人も楽しめる一冊なので、それこそ「ジブリ作品」のように、みんなで内容について語り合ってみてほしい。

 

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