【書評】『たった5秒思考のムダを捨てるだけで、仕事の9割はうまくいく』鳥原隆志
本から伝わる「編集者の想い」
この仕事を始めてから本に対する見方がかなり変わった。
「編集者目線」なんて言うと偉そうに聞こえるかもしれないが、「一番読んでほしい項目だからキャッチ―な見出しをつけてるな」とか「説明中心のところだから飽きさせないようにイラストを入れているな」とか、編集者の意図のようなものに気づけるようになった。
この前紹介した『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)でも感じたのだが、編集者が「この先生はすごい!」「この情報なんとしても伝えたい!」と思いながら作った本は、内容、カバーデザイン、キャッチコピーなど、いろんな要素につい手に取ってしまうような工夫がある。
編集者の「手に取って! 買って! 読んで!」という強い想いが形となって表れてくるのだと思う。
もはや伝説の編集者といってもいい幻冬舎代表取締役の見城徹さんは、『編集者という病』(太田出版)の中で、
僕は、売れたものはすべて正しいと思っている。売れたものはすべて、いい本なんです。
と述べているが、編集者の仕事のキモは、「ひとりでも多くの読者に届けたい」という想いを具現化させるためにどうすればいいのかを考え抜くことなのだろう。それがうまく結実したときに、売れる要素を持った「いい本」が生まれる。
今回紹介するのも、そんな編集者の想いが伝わってくる本だ。
『たった5秒思考のムダを捨てるだけで、仕事の9割はうまくいく』
書名:たった5秒思考のムダを捨てるだけで、仕事の9割はうまくいく
著者:鳥原隆志
ISBN:9784046001375
10万部突破のベストセラー『たった5秒思考を変えるだけで、仕事の9割はうまくいく』の第2弾。前作は「思考を変える」方法が紹介されていたが、今作は著者得意のインバスケット思考法を使って「思考のムダ」をなくす22の視点が紹介されている。
本書の各項目の最初には、黄金崎くんという「思考のムダ」からなかなか成果が上がらないキャラクターの失敗談が「なんでやねん!劇場」として面白おかしく載せられている。
黄金崎くんは明らかに仕事ができないのだが、やっている失敗自体は自分でもついやってしまうようなもので、笑いながらもドキッとさせられてしまう。
この失敗談のあとに、著者がそのような失敗を引き起こすのは、どんな「思考のムダ」が原因なのか、そしてそのムダをなくすための考え方、視点を丁寧に説明してくれる。
項目の最後には、読んだその日から実行できるような行動例が紹介されており、「ムダを知って、対策を立てて、行動する」という流れが一項目ごとにわかりやすくまとめられている。
本書には黄金崎くんの失敗談といい、すぐに実践できる行動例といい、「読者にわかりやすく著者のメソッドを伝えたい」という編集者の想いが伝わってくるような工夫がたくさん盛り込まれている。
著者自身の「インバスケット思考法」という5000人の仕事の質を変えてきた実績のあるメソッドと、それを少しでも分かりやすく面白く伝えたいという編集者の想いがうまく化学反応を起こし、クオリティの高いビジネス書に仕上がっている。
どんなビジネスパーソンにも勧められる「プロの仕事」が感じられる一冊だ。