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現役編集者の書評ブログ

ビジネス書の編集をしています。読んだ本を不定期で紹介します。

【書評】『楽しく学べる「知財」入門』稲穂健市

書評

出版界と「契約」

出版界は契約に関して割とアバウト……だったらしい。今は事前に印税交渉なども行ない、しっかりと契約を結んでいるが、昔は結構なあなあで、契約書を交わさないなんてこともあったようだ。

 

 

これを知って、古き良き出版界(だけではないのかもしれないが)は、契約や権利に対して結構リテラシーが低かったのかな? と思っていたのだけれど、あるベテランの編集者からこんな話を聞いた。

 

 今より緩い面はあったけれども、昔は刊行点数も多くなく、本を出せるのは一部の知識層が中心だった。編集者のほうも、他の業界では高卒で働くのが当たり前の時代でも、ほとんどが大卒だったから、「契約書を交わさない」というのが、そんなのなくたって問題ないというお互いへの“信頼”の表れでもあった。

 

この話を聞いて、「なるほど、そういう事情があったのだな」と感心した。もちろん、この考え方は現代には通用しないだろうし、実際に、この業界では契約上のトラブルというのもたびたび起こってきた。

 

 

しかし、著者と編集者の信頼関係はなんだか「粋」という感じがして、正直少しうらやましい。そういう関係で一度著者と接してみたい気持ちもある。



ただ、時代は確実に「契約社会」へと舵を切っているし、いつまでも、昔を見てうらやんでいては始まらない。

 

 

今回紹介するのは、そんな出版社の契約に必要不可欠な知識「知的財産権」について“ 楽しく学べる”本だ。

 

 

 

 

『楽しく学べる「知財」入門 』

書名:楽しく学べる「知財」入門

著者:稲穂健市

出版社:講談社 (2017/2/15)

ISBN:9784062884129

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本屋で平積みされている「4つのC」を見て思わず手に取ってしまった方も多いのではないか。この本の帯には、広島東洋カープ中央大学シンシナティ・レッズ智辯学園和歌山高等学校野球部、4つのよく似たマークとともに、「『C』に著作権はあるか?」という惹句が書かれている。

 

 

よく似た4つのCマークに著作権があるかどうかの答えは実際に読んでもらうとして、この帯やタイトルが示すように、本書は具体的な面白い事例を紹介しながら、知的財産権知財について「楽しく学べる」一冊となっている。

 

 

佐野氏の「東京五輪エンブレム騒動」に始まり、メリー喜多川氏の「早変り衣装」、サントリーとアサヒの「ノンアルコールビールを巡る裁判」に至るまで、知財に関係した数々の事例を楽しんでいるうちに自然とこの権利の大まかな全容を掴むことができる。

 

 

東京五輪エンブレム騒動」のときもそうだったけれど、マスコミはその疑惑だけを面白おかしく取り上げるだけで、それがどういうルールにどのように抵触しているのかはほとんど報道しない。

 

 

本書はそこからさらに一歩進めて、ルールと問題点を説明してくれているため、「あー、あのときはこういうことがまずかったのね」と納得できるのも、本書を読むことで得られる嬉しい副産物かもしれない。

 

 

著作権については仕事柄ある程度勉強していたつもりだったけれど、「キャッチフレーズに著作物性が認められたこともある」など、「そうなんだ!」と驚くようなものも結構あった。

 

 

本書で紹介されている幅広い事例を読めば、これから知的財産権はほとんどの仕事に絡んでくる「ビジネスパーソンの基礎教養」の一つになってくることがわかるだろう。

まずは本書のような「楽しく学べる」入門書を読んで、周りの人達に一歩差をつけておくのがいいかもしれない。

 

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