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現役編集者の書評ブログ

ビジネス書の編集をしています。読んだ本を不定期で紹介します。

【書評】『星間商事株式会社社史編纂室』三浦しをん

書評

「時間」と「読書」

最近は本を読むのは、もっぱら通勤中の電車の中だ。

朝、外が少しずつ明るくなっていくのを感じながら読む1時間と、夜、仕事終わりでほっとしながら読む1時間が、僕の読書時間の中心となっている。

 

 

ほんとは休日の方が時間はあるはずなんだけれど、みなさんもよくご存じのように、休みの日はあっという間に時間が過ぎ去り、すぐにサザエさんが始まってしまうので、それほど本は読めていない。

 

 

そんなこんなで、今は仕事の行き帰りに本を読んでいるのだけれど、朝と夜で自分が読みたい本がずいぶん違うなあと感じている。

 

 

朝は、難しめの新書とか固めのビジネス書とか、割と重いものを読むことが多い。まだ起きたばかりで、(寝不足でもない限り)頭がすっきりしているのと、仕事に向けて少しでもインプットしたい気持ちがあるからだと思う。

 

 

じゃあ仕事帰りの夜はどうなのかというと、朝と全く正反対でとにかく気軽にサクサク読める本が読みたい。一日中原稿を読んでいることもあり、脳も身体も疲れ切っているから、重い本にはなかなか手が伸びない。

 

 

帰りの電車では小説とか、エッセイとか「考えさせられる」より「面白い」が先に来るようなものがいい。

それらよりもっと手軽な『週刊プレイボーイ』や『週刊SPA!』のような大衆紙を読むときもある。

 

 

自分が高校生のころは仕事帰りに雑誌を読んでいるおっさんがあまり好きではなかったけれど、今はばっちり自分がその一員になっている。

 

 

ただ、僕が高校生だった時とは違って、今はスマホの「雑誌読み放題サービス」があるので、今の高校生には「こいつ仕事帰りに雑誌かよ……」とは思われていない(と信じたい)。

 

 

こうやって、朝に難しめの重い本、夜に気軽に読める本と、結構バランスのいい読書ができているから、『通勤中読書術』なんて本も作れるかもしれない。

(今度ほんとに企画書に起こしてみようか……)

 

 

 

『星間商事株式会社社史編纂室』

書名:星間商事株式会社社史編纂室

著者:三浦しをん

出版社:筑摩書房 (2014/3/12)

ISBN:9784480431448

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29歳腐女子で同人誌づくりをライフワークとする主人公・幸代が社史づくりにどたばたと奮闘する様子を売れっ子作家の三浦しをんが描く。

 

 

三浦しをんさんは、実はもともと編集者志望で、採用面接のときに書いた作文で才能を見出され、小説家になったという伝説的な逸話の持ち主だ。

誰もが一度は夢見たことがあるだろう、自覚していなかった才能を見出され、表舞台に引っ張り上げてもらうというおとぎ話のようなストーリーを本当に実現させてしまった人なのだ。

 

 

そんな三浦さんの代表作と言えば、映画化もされた『舟を編む』だが、この本も「社史編纂室」というタイトルから、大仕事にぶつかっていく苦悩を描く話なのかと思っていた。

しかし、この本の主人公・幸代は「社史づくり」に関しては全くやる気がなく、彼女が傾倒しているのは、BL小説であり、同人誌であり、コミケだった。

 

 

彼女の描く「おっさん×若者」のBL小説には、固定ファンもいて、仕事はそこそこに同人誌づくりを中心とした生活を送っていたのだが、「社史づくり」を進めていくうちに、会社が闇に葬り去ろうとしている過去があることに気づいてしまう。

 

 

職場の個性豊かなメンバーと、その過去について調査を続ける幸代だったが、忙しさを増す日々の中で、親友との距離や、彼氏との関係など、さまざまな変化が起きてきてしまう。

 

 

彼女は「友情」と「恋愛」に対してどんな選択をするのか……?

そして「社史づくり」は無事完成できるのか……?

 

 

ざっくり書くとこういう話なのだが、この小説の特徴はなんといっても溢れんばかりの「エンタメ性」だ。

友情・恋愛について悩みながらも前に進んでいく主人公の成長譚的要素や、後ろ暗い過去を隠している会社という巨悪に立ち向かおうとする勧善懲悪要素、BL小説に生活の多くを注ぎ込む様子を面白おかしく描くコメディー要素など、読者を楽しませようとする仕掛けがこれでもかというぐらい散りばめられている。

 

 

こんなに詰めこんだ内容にも関わらず、きちんと最後は風呂敷を畳みきるのは、三浦さんの非凡なバランス感覚のなせる業だと思う。

難しいことは考えずに、作者の用意してくれた舞台にのめり込んで、それを楽しんでいるうちにあっという間に読み切ってしまう。

 

 

まさに、仕事で疲れ切った夜にぴったりの「エンタメ」全振り小説だ。

一日仕事を頑張った自分へのご褒美として、帰りの電車や夜寝る前に読んでみてはいかがだろうか。

 

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