【書評】『たった一人の熱狂』見城徹
「焦燥」に支配されるとき
あなたは「努力家」だろうか?
ほとんどの人が、頑張りきれなかったときの苦い記憶を思い出し、この問いに対して「NO」と答えてしまうのではないか。
僕も自分のことを努力家とはとてもいえない。
もちろん毎日早起きして仕事に向かい、仕事中もできる限り頑張ってはいるけれど、それ以外の時間はここに書くのが恥ずかしいくらいだ。
仕事が終わって家に帰ったら、動画やテレビを見ているうちにあっという間に、寝る時間になってしまうし、休みの日は午後近くになっておきるような日もある。
企画をブラッシュアップするために読まなくてはいけない本、もっと読者をひきつけるような見出しをつけたい原稿など、取りかかった方がいいことはたくさんあるのに、ついそれらから目をそらし、だらだらとした日常を過ごしてしまう。
だらだらする毎日は楽ではあるけれど、同時にものすごい焦りに襲われる。
こうやって僕が惰眠を貪っているうちに、同時スタートしたはずの同期たちはどんどん先に行ってしまうのではないか。今はあまり差がなくても、数年後には、取り返しがつかないほどの実力差がついてしまっているのではないか。
編集者という仕事は、数字が明確に表れる実力主義で、年功序列のような働き方とは程遠い。
だから、若い編集者でも十分チャンスがあるし、逆をいうと、今この時期に頑張っていかなければ、十年もしないうちに簡単に淘汰されてしまうだろう。
僕は昔から本が大好きだし、本を作る仕事もとても面白いと思う。
だからこそ、今感じている「焦り」をきっかけに、この仕事を続けたいという「想い」を燃料に、この実力社会を生き抜いていくような「努力家」になりたい。
『たった一人の熱狂』
書名:たった一人の熱狂
著者:見城徹
出版社:幻冬舎 (2016/4/12)
ISBN:9784344424593
名物編集者として角川書店でベストセラーを連発したのち、幻冬舎を立ち上げ、現在も代表取締役として、出版界を牽引している見城さんによる「仕事論」「人生論」。
彼の仕事・人生に対する考え方を反映するような55の言葉がこれまでの強烈な仕事のエピソードとともに語られる。
出版社で仕事をしている人であれば、この人を知らない人はいないだろうし、編集者としての圧倒的な実績・能力に羨望と嫉妬の入り混じった複雑な感情を抱いている人が多いのではないだろうか。
この複雑な感情の出所は、この本にも書かれているが、見城さんに対する「自分には絶対に真似できない……」という印象だと思う。
実際にこの本に書かれている仕事への入れ込み方、著者へのぶつかり方、自分自身との向き合い方は、簡単にまねできるものではない。
・僕は花束を持って行っただけではなく、石原さんの『太陽の季節』と『処刑の部屋』を目の前で全文暗唱しようとした。
・僕は「人さらし」ではなく、「人さらい」でありたい。人さらいのように相手を身体ごと抱き上げ、自分の思うべき方向へ導きたいのだ。
・圧倒的結果をゼロに戻して新しい戦いに向かわなければ、より大きな成功や結果を絶対に得られないのである。
……どうだろうか。これらは本書の中からの引用だが、見城さんを知らない人でも、彼がどれほど「熱狂」的な人であるかが伝わるのではないだろうか。
ただ、ひとつ意外だったのが、彼が「自己嫌悪」をエネルギーに、日々の仕事に邁進しているということだ。
・「自分は駄目になってしまった」と自覚し、自己評価を敢えて下げる。そうすれば、人はそこから成長できる。
僕らが普段感じるような「自己嫌悪」とは、スケールが違うのかもしれないが、それでも、僕らだって彼のように「自己嫌悪」をプラスのエネルギーに変えて進んでいくことはできるはずだ。
僕のように、「自分は駄目だ」と考えてくすぶっているような人たちは、ぜひともこの本で、見城さんの「熱狂」に触れ、自他ともに認める「努力家」への道を一歩踏み出してほしい。