【書評】『熱狂宣言』小松成美
「熱さ」へのあこがれ
僕らの世代では「熱い」という形容詞はよくない意味で使われることの方が多い。
「○○くん、熱いよね」は、「ちょっと近寄りがたいよね……」というニュアンスを含んでいる。
「さとり世代」(死語?)なんて言葉でくくられることもある僕らは、自分や周りにあまり期待しすぎないこと、頑張り過ぎないこと、とにかくどこか冷めた感じであることが、同年代のコミュニティでうまくやっていく条件なのだと思う。
ただ、同年代の中で、熱い人が誰もいないかというと、そんなこともない。
上の世代よりも数は少ないかもしれないが、全力で夢を語り、行動している人もいる。
僕の高校にも一人いた。
彼は、日本の農業を変えたいという強い思いがあった。いかに日本の農業が危機的な状況に置かれているか、そしてそれをどう変えるべきか、身振り手振りを交えて、一生懸命話してくれた。
そして、実際その考えを実行に移し、学生ベンチャーの賞を受賞したりしていた。
彼のことを高校の同級生と、「熱すぎるよね……」などと話すことがある。
ただ、同時に僕は彼のことをとても羨ましく感じる。
ああやって周りを一切気にすることなく夢を語れて、猪突猛進に向かっていけたら、どんなに充実して楽しいだろうか。
「熱いねえ」などと彼のことをへらへら笑いながらそんなことを考えているのだから、いよいよもって救いがない。
『熱狂宣言』
書名: 熱狂宣言
著者:小松成美
出版社: 幻冬舎 (2015/8/7)
ISBN:9784344027961
ダイヤモンドダイニング社長・松村厚久が奇跡とも称される「100店舗100業態」の偉業を成し遂げるまでの奮闘の日々をノンフィックション作家小松成美が描く。
ダイヤモンドダイニングについて知らなかったとしても、「不思議の国のアリス」をコンセプトにしたレストランの運営会社と聞けば、ピンとくる人もいるかもしれない。
都内にある変わったコンセプトのレストランはほとんどこの会社によるものだといっていいくらい、業界内でも異色の存在であるようだ。
できるだけ全ての店舗を画一化し、メニューも統一のものにした方がコストがかからず効率的なのに、「 100店舗100業態」という常識破りの出店を行ったのは、松村の熱狂的な挑戦意欲があったからだ。
彼は絶対に現状に満足せず、誰もが無理だと笑うような目標を打ち立て、その目標に全身全霊で挑んでいく。その鬼気迫る様子は見ていて少し怖くなるくらいだ。
しかも、彼はパーキンソン病という現在の医療では治すことのできない難病を抱えている。僕は偶然、彼のことを特集しているテレビ番組を見たが、その病状の深刻さに衝撃を受けた。
一人で立つこともできない、満足に話すこともできない。どう見ても、会社の経営などできる状態ではなかった。それでも、周りの従業員たちは彼を支え、彼の夢の実現を後押しする。
従業員を、そして彼自身を突き動かすものはやはり溢れんばかりの「熱狂」なのだろう。
最終的に人を動かすのは「理屈」ではなく、「感情」なのだと思い知らされた。
僕らの世代に足りないもの、必要なものを教えてくれる本だと思う。
みんなで読むことで、飲み会とかで熱い夢を語れるような空気にしていけたらいい。