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現役編集者の書評ブログ

ビジネス書の編集をしています。読んだ本を不定期で紹介します。

【書評】『丘の上のバカ』高橋源一郎

日常への「無関心」

大学の友達と久しぶりに会うと、みんなの仕事の話を聞けて、すごく刺激になるし、勉強にもなる。

広告代理店の話も、マンション管理の話も、どれも今まで全然知らなかった社会の裏側のようなものが垣間見えて面白い。

 

しかし、同時に感じるのは、「僕は、社会のこと、世の中のこと、あまりに知らなさすぎるのではないか……」という不安である。

広告だって、マンションだって、目にしない日はないけれど、どんな人がどういう意図でどうやって作ったのかなんてほとんど考えもしない。

毎日食べているもの、毎日使っているもの、毎日目にしているものについて、僕は何も知らないし、知ろうという努力もしない。

ただ、どこかから供給されるものを毎日享受し続けているだけだ。

 

例えば、本をよく読む人の中でも、多くの本のページ数は印刷・製本の関係で、16の倍数になっている、ということを知っている人はどれだけいるだろうか。

(僕は今の会社に入るまで知らなかった……)

このように、僕は自分の周りのものに無頓着なまま毎日を送っている。

 

確かに、今の社会の構造や、物の仕組みは複雑すぎて、いちいち立ち止まって考えていたら、時間がいくらあっても足りないのかもしれない。

でも、そういう「うまく回っているからいいか」という楽観的な思考で、日々を過ごしていたら、いつか必ず手痛いしっぺ返しを食らうような気がするのだ。

 

 

 

 

 

 

『丘の上のバカ』

書名: 丘の上のバカ ぼくらの民主主義なんだぜ2

著者:高橋源一郎

出版社:朝日新聞出版(2016/11/11)

ISBN:9784022736949

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作家で、明治学院大学国際学部教授でもある高橋源一郎の政治・社会に関するエッセイ集。

語り口は非常に穏やかで、ユーモアのある表現も使われているが、現代社会の歪みや違和感に対する視点は鋭く、僕らが普段素通りしてしまっていることをすくいあげ、著者なりの解説を加えてくれている。

 

著者は誰か特定の人を選んで投票して、あとは政治の「専門家」にお任せ、という現代の「民主主義」に疑問を投げかける。

 

政治というのは一部のプロ集団に任せるものではなく、僕らアマチュア集団が自らで考え抜いて物事を決めていくことなのではないかと。

そうやって、自らが何も知らない「バカ」であることを自覚しながらも、丘に集まり、積極的に議論を交わす、あるいはその議論を見つめるということが「民主主義」の原点なのではないかと。

 

この著者の指摘は多くの現代人にとって、胸に刻むべき内容だと思う。

政治に限らず、僕らは多くのものを「専門家」に外注しすぎている。

そうして一度任せたものに対しては興味を失い、作られたルールや仕組みをそのまま受け入れてしまう。

 

人任せにはせず、自らで考え続けること、行動し続けること。

複雑な現代社会では、とてもめんどくさく難しいことかもしれないけれど、著者のように、それを続け、僕らに呼びかけてくれる人もいる。

ひとりでも多くの人に、この本を読んでもらい、著者自身からこの呼びかけを受け取ってほしいと強く思う。