【書評】『棋士の一分』橋本崇載
斜陽産業とその未来
「斜陽産業」とよく呼ばれる業界に身を置いている。
新聞でも、テレビでも、ネットニュースでも、ありとあらゆるところで出版不況が叫ばれるものだから、会社内でも「業界の未来は……」という話になるし、友達からもよく心配されている。
確かに、最近電車の中で本を読んでいる人をほとんど見かけなくなった。
スマホ8割、うたたね1割、読書0.5割、虚空を見つめる人0.5割といった感じだ。
(余談だが、あのよくわからない方向をじっと見つめている人は何か特別なものが見えているのだろうか)
文庫本ならまだ見かけないこともないが、特に雑誌を読んでいる人なんて、ここ一週間全く見ていないかもしれない。
そんな電車の様子を反映するように、雑誌の売り上げはここ数年激減し、休刊、廃刊に追い込まれるものも増えてきている。
雑誌がどんどんなくなっていくと、新鮮な情報(まあ、これもネットには到底及ばないのだけれど)を発信できなくなり、余計に、他のメディアから遅れを取ってしまう。
東洋経済新報社などオンラインで記事配信をし、かなりのview数を稼いでいるところもあるが、雑誌だけではなく、書籍の売り上げも落ちているし、全体的に元気が無くなっているのは事実だろう。
『棋士の一分』
書名: 棋士の一分 将棋界が変わるには
著者:橋本崇載
出版社:KADOKAWA (2016/12/10)
ISBN:9784040821207
「SHOGI - BAR」の開店やバラエティ番組への出演など、異端児ともいえるような活動で注目される橋本八段が将棋界への提言を綴っている。
橋本八段によると、将棋界は「斜陽産業」(!)なのだそうだ。
将棋ソフトの力が飛躍的に伸び、プロにも勝ち越すようになったいま、プロ棋士、将棋連盟の存在意義が揺らいできており、いつ新聞社がスポンサーを降りてもおかしくないのだという。
このまま、何も具体的な手を打たず、今まで通り、将棋を指し続けていたら、近い将来、プロ棋士として生きていくことはできなくなる、と警鐘を鳴らしている。
確かに将棋ソフトの台頭というのは、これまで積み重ねてきた将棋の伝統が、全てぶち壊されてしまうくらいの衝撃なのかもしれない。
もし、ソフトがこの調子でどんどん進歩し、○×ゲームのように、最善手を打った場合の勝敗が判明してしまったら、将棋をあまり詳しくない僕でもなんだかがっかりした気持ちになるだろう。
熱心なファンはものすごいショックを受けるのではないだろうか。
橋本八段は、これからプロ棋士のあり方、収益の挙げ方、ファンの取り込み方、その全てを見直し、時代に合わせた形に変えていかなければ、将棋界の未来はない、と言い切る。
ただ、その見直しがいかに困難で、労力を使うものなのかということにも言及している。
「斜陽産業」に身を置くことの危うさとそれを変えていくことの難しさ。
なんだか読んでいて、とても耳が痛い話ばかりだったけれど、今後、自分がその業界で生き続けたいのであれば、どんなに億劫でも、どんなに痛みを伴うものであっても、なにかしらの行動を起こさなくてはいけないのだ、と思った。
自分が身をおく環境に危機感を覚えつつも、なんとなく日々を送っているという人は、ぜひこの本を手に取って、自ら行動するきっかけとしてほしい。